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           安天栄老師が説明して下さった殺手について述べる前に、一つだけお断りしておくこと 
          がある。それは、八極拳の殺手についてである。 
           八極拳の殺手といえば、所謂、猛虎硬爬山等の絶招である「八大招」を思いがちであ 
          るが、そうではないことをお断りしておく。 
           それでは、何を以って殺手というのであろうか。 
          
           もし、これを定義付けるならば、殺手とは、「練功を積んだ身体全体を協調させて繰り 
          出された招法で、敵に対して殺傷能力のあるもの」ということができるであろう。 
           これは、すなわち八大招式の猛虎硬爬山であっても、金剛八式の冲捶であっても、十 
          分に殺手になりうることを意味している。殺手という特別な技があるというわけではない。 
           ちなみに、霍殿閣師太爺の得意技(殺手)は、手指の功が相当強かったのか、金剛八 
          式、伏虎の第二練法の形で、指を穿出して点穴するもの、つまり手指で敵の目を突くと 見せかけて喉を突く(点穴)技であったといわれている。 
           さて、安天栄老師の殺手についての説明を再現すると、「八極大架中のこの動作は、 
          拍(こう←上にクが付く)肚双撞という。この動作の掌形を少し変化させると(実技をもって 説明して下さった)、八大招式の黄鴬双抱爪になる。八極対接ではこうだ。こうして相手 の腎を打ってやる・・・・・」 
           敵の腎を打つ技法は、他の門派の技法群の中にも見られるが、なぜ敵の腎を打って 
          やるかというと、それは、敵の腎臓の機能を低下させるためである。 
           腎は体内の毒素を浄化する機能をもっているといわれる臓器である。ゆえに腎臓の機 
          能が低下すると毒の浄化作用が弱くなる。そして腎機能が低下後に、長い年月が経過 すると、体内の毒素は浄化されないまま残ることになる。こうした毒が体内に残っていく と、他の臓器にも悪影響が出てくるのは必定であろう。 
           安天栄老師が説明して下さった殺手、「拍(こう←上にクが付く)肚双撞」は、敵の腎を 
          刹那的に切るように打つ。安天栄老師は、この殺手の鍛錬方法として、柱の角を手刀で 削るように切る方法を紹介して下さったが、そのときの打ち方はまさに、全身を協調させ て一気に爆発させているかのようであった。 
           安天栄老師の殺手、「拍(こう←上にクが付く)肚双撞」は、八極対接の他に、八極応手 
          拳(霍殿閣師太爺が、金剛八式・六大開・八大招式などの技を混ぜ合わせて編成され た、極めて実戦色の濃い套路)の第七路の中にも見ることができる。 
           安天栄老師の説明によって、その恐ろしさを改めて知らされたので、筆者の心に強く残 
          った。以上の理由により、安老師の殺手は、感じたことの一つとして特に挙げておく。 
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