安天栄老師による六大開の「胯」
―霍氏八極拳専編より―

 安天栄老師の講習を受けて、今回はその感じたことや印象に残ったこと、学んだことな
どをできるだけ詳しく述べるために、テーマを絞ったが、最後に六大開と八大招式を学ん
で感じたことに言及することによって、この講習会レポートのまとめとしたい。

 六大開と八大招式は、ともに八極拳の核心と言われている。八大招式は、八極拳の各
派ごとに異なっていると聞いたことがあるが、各派によって異なっているどころか、どうや
ら各老師ごとに異なっているものと思われる。

 同じ霍氏八極拳であっても、譚吉堂老師系のものと、原慶春老師系(霍慶雲老師系)の
もの、そして筆者の師、李国立老師から学んだ斉徳昭老師系の八大招式は、あるもの
は同じ、またあるものは異なっていた。

 かつて筆者が李国立老師から八大招式を学んだときに、「この招式の本質はこれだ。
本質のこの部分が、この招式の特徴を表している。この部分さえ踏まえれば、形は(要訣
は満たさなければならないが)どのようになっても構わない。ゆえに、お前の八大招式と
私のそれは、異なったものになるかもしれない」と言われたことがある。

 このとき、筆者にはどういったことなのか理解できなかったが、筆者は安天栄老師から
学んだ八大招式と、筆者の師、李国立老師から学んだ八大招式を比較することにより、
この言葉の意味を理解することができた。

 原慶春、斉徳昭、両老師系に共通する八大招式のひとつに「立地通天炮」という招式
がある。

 この両老師系の立地通天炮という招式の形は、ともに全く異なったものであったが、ど
ちらの招式にも「天を通る炮弾」が体現されていた。

 これらの招式の本質といえば、「天を通る炮弾」ということで、立地通天炮という招式の
特徴がよく表されていた。

 六大開について、安天栄老師は、「六大開とは、八極拳の理論であり、実戦技法であ
り、八極拳の力の特徴である。八極拳の套路などの動作は、すべて頂・抱・纏・提・胯・
単の六字に分類できる。この六字訣すべてを体現することができる者こそが、八極拳の
伝人である。ゆえに六大開は、八極拳の核心のひとつとして挙げられている」と説明して
下さった。

 これは、八極拳の小架の中に六大開があり、大架の中にも六大開があるということ
で、八極拳の各套路、単式拳路の中にも六大開が含まれていることを意味している。

 安天栄老師の六大開と八大招式は、我々日本人がよく言われる「何かが足りない中国
武術」に対して、何が足りないのか気付かせてくれた。

 例え形が異なっているものであっても、そこに共通した普遍的なものこそが、その門派
の「核心」ともいえるべきものではないだろうか。

 安天栄老師の来日記念講習会は、形や技法だけではない中国武術の奥深さを感じさ
せて下さった講習会であったと筆者には思われる。

 中国の諺に「一日師となれば、終生父となす」という諺があるが、安天栄老師のご指導
は、それに値するものであった。

 我々講習会に参加した者達は、安天栄老師の功夫に驚いているばかりであったが、安
天栄老師の今回の来日の思い出の一ページに加えていただければ幸いである。

 安天栄老師、本当にありがとうございました。




安天栄老師の「纏」による収式
―霍氏八極拳専編より―



 今回、安天栄老師来日記念講習会を開き、また、そのレポートをまとめるにあたって、
多くの方々にご助力をいただいた。

 講習会では、安天栄老師の通訳を務めて下さった、安天栄老師の義弟でもある趙玉
祥老師(安天栄老師が殺手の説明をして下さったとき、趙玉祥老師も点穴の一例を見せ
て下さった)。

 講習会の日程を調整して下さった、日本武林盟友会の方々。

 安天栄老師と筆談をおこなったノートをより正確に訳すのに尽力して下さった周亜青氏
(氏は宮宝田系の八卦掌に詳しく、武術用語を正確に訳して下さった)。

 そして最後に、安天栄老師から学んだ技の復習に付き合ってくれた筆者の友人達に、
礼を言いつつ、今回の講習会のレポートを終えることにする。



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