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           最初に、武術書の翻訳をおこなうには、これから翻訳をおこなおうとする翻訳資料が必 要である。すなわち、先ずは翻訳資料を選択するために、様々な研究資料を蒐集しなけ ればならない。 
           翻訳作業のすべてのスタートはここからである。  
           翻訳を開始するにあたって、まずどのような資料を翻訳するのか、最初から翻訳資料 がすでに決まっている人は別として、翻訳資料を決定していない方は、多くの研究資料 を目にしなければならない。 
           ここでいう研究資料とは、必ず翻訳するものとはならないが、先にこのような資料を目 に通すことによって、背景的な知識を身に付け、また、実際に翻訳資料を決定した後 に、その翻訳を助けるための参考文献ともなるものである。 
           研究資料は、概してどのような学問学術分野においても、その研究上の土台となる基 礎を形成するのに重要視されている。 
           我が国の古流武術の分野では、すでに研究資料として、各流派の伝書が一般に公開 され、その内容が技の名称のみであったり、また抽象的で分かりにくいものであったとし ても、研究者の間では、高い評価がなされている。 
           一方、中国武術の研究資料についていえば、意外と拳譜(中国武術各派の伝書のこと) の内容が、詳しく図解されて述べられていたり、または拳譜自体をそのまま写してあるも のなど、中国武術研究者に限らず、「各門派の武術の深奥に触れたい」と考えている研 究者等にとっては、まさに「宝の山」ともいうべき内容が詳述してある資料であるにもか かわらず、「中国語で書かれたものなので、見てもどうせ意味が分からない」と、最初か ら敬遠したり、また資料の価値を軽視して、全く取り合わないといったケースが見受けら れることが多い。 
           筆者はこのように述べているが、実は筆者もかつてこのような理由で、中国語の原書 資料を敬遠し、全く取り合わなかったのであるが、中国武術の名師からその著書を手渡 されたり、実際に指導していただいたときに教えていただいた口訣や歌訣を理解するた めに、研究資料を蒐集するようになった。  
           さて、一口に研究資料といっても、実際にはどのようなものがあるのか、ここでは、翻 訳を開始する前提としての研究資料について考察したい。 
           先ず、研究資料の分類であるが、研究資料は、研究者の各人によって、活用の仕方、 
          重要度の見解が分かれるが、分類については、概ねこのようになると思われる。 
           @、辞書 
           A、手抄本 
           B、拳譜 
           C、拳譜本 
           D、現代版国内本 
           E、漢文参考書 
           F、中国古典 
           次に、これらの研究資料について、その役割や価値など、筆者の思うところを述べる。 
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