この掌譜は、私の八卦掌研究において、八卦掌という武術をどのように練るか、また
実戦時に、その要訣がどこに現れてくるのかなど、様々な視点からアプローチすることに よって、私の八卦掌研究の蒙を開いてくれた重要な秘伝書のひとつです。
私が本書を入手したとき、この掌譜は、当時、私に中国語の知識が全く無かったため
に、ただの漢字が羅列されたものにすぎませんでした。
しかし、これを私に下さった佐藤金兵衛先生(私の八卦掌開門の師)が、「この本の中
に、八卦掌の技はすべてあるから、よく研究するように」とおっしゃられたので、何とか、 これを日本語に訳すことができないか、考えるようになりました。
そこで、初めは本書を、中国語ができる友人に翻訳を依頼しようと考えましたが、実際
に、中国語はできるが、武術は専門外の友人が、武術書の翻訳をしてくれたのを見て、 この類の書は、実際に武術を練ったことがある(本来なら八卦掌を練っている者の方が 望ましい)人でなければ、翻訳は難しいということが明らかになりました。
それから私は、中国語の知識が豊富で、武術を練っている友人にお願いしようと考え
ましたが、翻訳には大変な時間と労力が必要となってくるために、他の人に依頼するの 不可能ということが分かりました。
この掌譜を翻訳するのに、残された方法は、ひとつしかありません。自分で翻訳すこと
です。
私は、最後の方法を採りましたが、幸いなことに、分からないところは、中国武術に造
旨の深い友人に質問することができ、また、日本に留学していた、尹派八卦掌、六世に あたる友人、周亜青氏からも指導を受け、掌譜の理解をすすめることができました。
1996〜1998年、私は、本書の著者である、上海の著名武術家、故・裴錫榮老師のもと
を訪れ、自分の翻訳したものを見ていただきました。そして、裴錫榮老師からも同じ掌譜 を授けられ、日本語に翻訳して公開してほしいと託されました。
私は、そのとき裴錫榮老師が「これには、八卦掌第二代伝人、尹福の序文が付いてい
るんだ」と、嬉しそうに自慢されていたことを憶えています。
実際、翻訳作業が進むにつれて、要訣と要訣との関わり合いや、多くの要訣が、実戦
時において、どのように関係してくるのかが分かり、さすがに先師、尹福が「董海川所伝 の絶手」と謳い、その子息、尹玉璋師にして、「軽々しく、他人に伝えるな」と語らせただ けのことがあると理解できました。
翻訳を始めて、実に約七年の歳月を経て、私は、ついにこの八卦掌六十四路散手の
翻訳を完成させることができました。現在、武術書の翻訳は、私のライフワークのひとつ となっています。
私が翻訳した八卦掌六十四路散手は、BABジャパン刊、「BUGEI」2001年春号に
て、その一部が紹介されています。
今回、ここに八卦掌六十四散手を公開する目的は、前述の故・裴錫榮老師との約束を
果たしたいというのが、その主要な目的のひとつですが、この優れた掌譜を公開して、共 にこの技術体系を研究して下さる仲間を募り、自分なりに、もっと研究してみたいという ことを考えたからです。
これより以下、八卦掌始祖、董海川より尹福、尹玉璋、裴錫榮らの先師に伝えられた
「八卦掌六十四路散手」のすべてを公開します。
最後の六十四路まで、お付き合いいただけましたら、幸いに思います。
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